19世紀末から20世紀初頭にかけてイギリスで人気を博した画家ルイス・ウェイン。
人間のようにふるまう猫たちをユーモラスに描き、当時はまだペットとして地位が低かった猫を広く愛される存在へと導いた人物です。
その絵は、イギリスに留学していた夏目漱石にも影響を与えたのではないかといわれています。
そんなルイス・ウェインの半生を描いたのが、2021年公開のイギリス映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』です。
主演は数々の実在人物を演じてきたベネディクト・カンバーバッチ。
独特な存在感が、天才でありながらも風変わりで現実社会に不器用なルイスを鮮やかに表現しています。
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映画「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」解説
本作は、画家ルイス・ウェインが生涯をかけて愛した妻エミリー、そして猫たちとの物語を軸に進んでいきます。
ヴィクトリア朝時代の華やかなロンドンを背景に、芸術的才能と繊細な感性を持ちながらも、時代の流れや生活の荒波に翻弄されるルイスの人生が丁寧に描かれています。
監督・脚本を務めたのはウィル・シャープは俳優としても知られますが、本作ではルイスの人生に独特の温度感と幻想的な色彩を与え、現実と幻想が交錯するような映像美を実現しました。
キャスト紹介
- ルイス・ウェイン：ベネディクト・カンバーバッチ
天才的な画力を持つ一方で、社会的には不器用な主人公。愛する妻と猫との出会いが人生を大きく変えていきます。 - エミリー・ウェイン：クレア・フォイ
ルイスが深く愛した家庭教師であり妻。病に倒れるも、彼に猫の絵を描くきっかけを与えました。 - キャロライン・ウェイン：アンドレア・ライズボロー
ルイスのしっかり者の妹。家族を思うがゆえに、兄の自由な生き方に苦言を呈することも。 - ウィリアム・イングラム卿：トビー・ジョーンズ
新聞社を営み、ルイスの才能を見いだした人物。彼の人生にとって重要な支援者です。 - ナレーション：オリヴィア・コールマン
優しい語り口で物語を導き、観客をルイスの人生へと引き込んでいきます。
映画「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」あらすじ・ネタバレ
19世紀末のロンドン。
父を亡くしたルイス・ウェイン（ベネディクト・カンバーバッチ）は、母と5人の妹たちを養う責任を負うことになりました。
動物の絵を得意とするイラストレーターで、農業ショーで動物を描く仕事を任されるほどの腕前。
しかし天才肌で変わり者の彼は、危険なほど牛に近づいてスケッチをし、世間から話題になってしまうなど、常識から外れた行動が目立ちます。
ある日、出版社を営むイングラム卿（トビー・ジョーンズ）から専属画家の話を持ちかけられますが、ルイスは「電気の研究で特許を取るのに忙しい」と言って断ってしまいます。
実生活よりも発明や空想に夢中な彼の姿勢は、しっかり者の妹キャロライン（アンドレア・ライズボロー）をいつも苛立たせていました。
そんな中、妹たちの家庭教師として雇われた女性エミリー（クレア・フォイ）が現れます。
最初は家族からの反対もあり、エミリーは屋敷に馴染めずクローゼットに隠れるほどでしたが、ルイスは彼女に惹かれ、やがて恋に落ちていきます。
しかし、エミリーとの関係は世間から「身分違いの不釣り合いな恋」として噂され、妹キャロラインは激怒。
エミリーを解雇してしまいます。
それでもルイスは「人がどう思おうと構わない」とエミリーを選び、二人は結ばれるのでした。
幸せな結婚、そして訪れる悲劇
1884年。ルイスは周囲の反対を押し切り、年上のエミリーと結婚します。
郊外の小さな家で、二人きりの穏やかな新生活を始めるルイス。
その中で、ルイスは初めて「普通の幸せ」を知るのでした。
しかし、幸せは長く続きません。
エミリーが乳がんを患い、末期であることが判明します。
衝撃を受けるルイスでしたが、ある日庭で一匹の野良猫と出会い、白黒模様のその猫を「ピーター」と名づけて飼い始めます。
当時は猫をペットにする習慣がほとんどなかったため、この出来事はルイスの創作活動に大きな転機をもたらしました。
エミリーの提案で、ルイスは猫の絵を描き新聞社に持ち込みます。
擬人化された猫の姿は人々の心をつかみ、新聞のクリスマス版に掲載されると一大センセーションを巻き起こしました。
エミリーは自分の死期を悟りつつも、「世界はもともと美しい。その美しさをあなたが描き続けて」とルイスに伝えます。
やがてエミリーは静かに息を引き取りました。
猫画家としての名声と苦悩
妻を失った悲しみを埋めるように、ルイスは大量の猫の絵を描き続けました。
その結果、彼は一躍「猫画家」として有名になり、ナショナルキャットクラブの二代目会長にまでなります。
猫をペットとして大衆に広めた立役者となり、名声は高まっていきました。
しかし、生活は苦しいままでした。
ルイスは交渉やお金に極端に疎く、著作権や版権を放棄していたため、絵が売れても収入はほとんどありません。
さらに、妹マリーが統合失調症を発症し、母親も亡くなるなど、家族の不幸が次々と彼を襲います。
1907年、生活苦から逃れるようにルイスは渡米。
新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストに雇われ、ニューヨークで3年間を過ごします。
しかし、彼の奇妙な電気の理論や突飛な行動は周囲を困惑させ、結局安定にはつながりませんでした。
帰国後も状況は悪化の一途をたどり、妹たちとの生活はますます困難になっていきます。
やがてルイス自身も精神を病み、統合失調症と診断されます。
幻覚に苦しみながら、彼はサイケデリックな猫の絵を描き続けました。
晩年の救済と静かな最期
1925年。
ルイスは精神病院の劣悪な病棟に収容され、孤独な生活を送っていました。
そんな彼を偶然訪ねてきたのは、かつて汽車の中で犬の絵を描いてあげたダン・ライダーという男性。
この憔悴した老人がかつての人気画家ルイス・ウェインであることに驚きます。
ダンは彼を救うため基金を設立し、世界中の人々に支援を呼びかけました。
H・G・ウェルズなど著名人も協力し、ついにルイスはより快適な療養施設へ移されます。
そこは庭や森に囲まれた美しい場所で、かつてエミリーと猫のピーターと過ごした思い出の湖を思わせる風景が広がっていました。
晩年、ルイスは日記の間からエミリーのショールの切れ端を見つけます。
それは、彼女が死の直前に忍ばせていたものでした。
その布を手に取り、静かに外の光の中へ歩いていきます。
森を抜けると、まるで彼の絵の世界のように幻想的な湖が広がっており、そこでルイスは愛する妻エミリーの存在を再び感じるのでした。
映画「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」感想
わたしが映画「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」を観て感じたのは、とにかく“愛の不思議な力”でした。
ルイスの人生は決して順風満帆ではなく、むしろ挫折や苦しみが多かったと思います。
でも、妻エミリーとの出会いと、猫という存在が彼の中に小さな灯をともしてくれた。
その光が彼の絵に表れていて、観ている自分まであたたかい気持ちになりました。
特に印象に残ったのは、ルイスが猫をただの動物ではなく、人間と同じように豊かな感情を持つ存在として描いていたところです。
あのユーモラスで愛らしい猫たちは、ただ可愛いだけじゃなく、ルイス自身の孤独や愛情の裏返しのようにも見えて、胸に響きました。
同時に、芸術家としての才能がありながら、時代に恵まれず経済的に苦労し続けたルイスの姿は切なかったです。
心を込めて描いた作品が、正当に評価されずに生活を苦しめたという事実は、現代に生きるわたしたちにも考えさせられるものがあります。
でも最後まで、その絵は愛に満ちていたんですよね。
妻への思い、猫への慈しみ、そして世界を少しでも明るくしたいという優しさ。
観終わった後、なんだか「自分も日常の小さな愛情をもっと大事にしよう」と思わせてくれる映画でした。
個人的には、観ていて涙と笑顔が交互に訪れるような、心がじんわりあたたまる作品だったと思います。
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まとめ
映画「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」は、画家としての才能と、妻エミリーや猫たちへの深い愛情が描かれた心温まる作品でした。
ルイスの人生は決して楽ではありませんでしたが、愛によって生まれた数々の猫の絵は、今でも多くの人を笑顔にしています。
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