映画「デビルズ・ダブル －ある影武者の物語－」は、2011年に公開されたベルギーの実話ベース映画です。
イラクの独裁者サダム・フセインの長男・ウダイの影武者として4年間を過ごしたラティフ・ヤヒアの実体験を描いています。
狂気と権力に満ちたフセイン政権の裏側を、本人の視点で描く衝撃の物語です。
監督は『007 ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリ監督。
主演のドミニク・クーパーがウダイとラティフの二役を演じ、圧巻の演技で世界的に高い評価を受けました。
映画「デビルズ・ダブル －ある影武者の物語－」解説
- 原題： The Devil’s Double
- 公開年： 2011年
- 製作国： ベルギー
- 監督： リー・タマホリ
- 脚本： マイケル・トーマス
- ジャンル： 実話・ノンフィクション／サスペンス／社会ドラマ
物語の舞台は1980年代後半のイラク。
サダム・フセイン政権のもと、国は恐怖と独裁に支配されていました。
その中で、ウダイ・フセインは権力を盾に、暴力と快楽に溺れる狂気の存在として恐れられていました。
自分と瓜二つの男――ラティフ・ヤヒアを見つけたことから、すべての悲劇が始まります。
キャスト
- ドミニク・クーパー … ウダイ・フセイン、ラティフ・ヤヒア（1人2役）
- リュディヴィーヌ・サニエ … サラブ
- ラード・ラウィ … ムネム
- フィリップ・クァスト … サダム・フセイン
- ナセル・マメジア … ラティフの父
映画「デビルズ・ダブル －ある影武者の物語－」あらすじ・ネタバレ
1980年代後半のイラク。
元兵士のラティフ・ヤヒアは突然、政府の使者に呼び出され、サダム・フセインの長男ウダイ・フセインの邸宅へ連行されます。
学生時代、ラティフとウダイは同級生で、驚くほど顔が似ていました。
ウダイは「父サダムも影武者を使っている」と言い、自分の影武者になるよう命じます。
拒否すれば「家族を刑務所に送る」と脅され、ラティフは過酷な運命を受け入れざるを得ませんでした。
影武者として生きるために、ラティフは整形手術や歯の補正、立ち居振る舞いの訓練まで徹底的に施されます。
自由は一切奪われ、名前も過去も消されました。
唯一の味方は付き人のムネムだけでした。
ウダイは気まぐれに豪邸を案内し、「ここにあるものはすべてお前のものだ」と言い放ちますが、それは自由ではなく“監禁された贅沢”にすぎませんでした。
ラティフは次第に、この国の権力の恐ろしさを肌で感じていきます。
享楽に溺れる日々
ウダイは享楽に溺れる日々を送り、常にドラッグと女性、暴力に囲まれていました。
ベイルートのナイトクラブへ赴いた際には、ラティフを弟として紹介し、派手な振る舞いを見せつけます。
しかしラティフは隙を見て逃走を試み、自宅へ戻ろうとします。
ところが、ウダイの部下たちが家族を監視しており、即座に捕まり、再び激しい拷問を受けました。
その後、サダム・フセイン本人との対面が実現します。
サダムはラティフの姿を見て「もう一人息子ができたようだ」と笑い、影武者の存在を容認しました。
以降、ラティフは公の場でウダイとして振る舞うことになりますが、そのたびに命の危険にさらされます。
バグダッドでの視察中には銃撃を受け、恐怖に震えながらもウダイとして逃げ延びました。
ウダイは次第に狂気を深め、女学生を気に入っては拉致し、薬物を与えて暴行するようになります。
ある夜、パーティの席でサダムのお気に入りの側近を侮辱し、怒りに任せて殺害してしまいます。
サダムは息子の行動に激怒し、銃を突きつけて「生まれた時に殺しておけばよかった」と言い放ちました。
ウダイは自殺未遂を図りますが、命を取り留め、その歪んだ性格はますます破滅的になっていきます。
湾岸戦争
その頃、ウダイにレイプされた女学生は薬物中毒で死亡しました。
ラティフは拷問映像や遺体の山を見せられながら、徐々に精神を蝕まれていきます。
湾岸戦争が始まり、ウダイは「戦地に行って兵士を鼓舞してこい」と命じ、代わりにラティフを派遣します。
ウダイの代役として戦場に立ったラティフは、命がけで兵士たちを励まし、テレビ中継にも登場しました。
しかし現地で敵の待ち伏せを受け、必死に逃げ延びます。
戦争が終わると、イラクは敗北を喫し、国全体が混乱に陥ります。
その中でもウダイは変わらず快楽に溺れ、ある兵士の結婚式に乗り込み、花嫁を拉致してレイプしました。
花嫁は絶望の末に屋上から飛び降り自殺します。
その姿を見たラティフは怒りを抑えられず、ウダイを殴りつけました。
ウダイは笑いながら「お前を絶対に離さない」と言い、支配を強めます。
やがて、拉致された女学生の父親が娘の消息を尋ねに来ます。
ラティフは真実を語れずに苦悩しますが、ウダイは「お前の手で殺せ」と命じます。
ラティフは拒否し、自らの手首を切り裂いて抗議しました。
命を取り留めたものの、心は完全に壊れていきました。
結末
療養中のラティフに、ウダイの誕生日パーティーへの招待が届きます。
父に別れを告げ、最後の覚悟を決めて会場に向かいました。
パーティーの場でウダイに暴言を吐き、ウダイは激昂して銃を乱射します。
混乱の中、ラティフは逃げ出し、ウダイの愛人サラブとともに国外逃亡を果たします。
二人はマルタ島にたどり着き、ようやく自由を手にしたかに見えました。
しかし、ホテルの電話が鳴り響きます。
ウダイからの電話でした。
さらにサラブがウダイと密かに連絡を取っていたことが発覚し、裏切りが明らかになります。
絶望したラティフのもとに、父親の遺体が届きます。
ウダイは父を殺し、「お前のせいだ」と電話で嘲笑しました。
ラティフは怒りと悲しみに震え、「地獄に落ちろ」と叫びます。
その後、ラティフはムネムと再会し、ウダイ暗殺を決意します。
市場での狙撃を計画し、ウダイの車を襲撃しますが、少女が間に入り、致命傷を与えることはできませんでした。
ウダイは重傷を負いながらも生き延び、ラティフは命からがら逃走します。
ラティフを追ったウダイの部下は、かつての友情から見逃しました。
その数年後、ウダイ・フセインはアメリカ軍によって殺害され、フセイン政権は崩壊します。
ラティフは国外で亡命生活を送りながら、過去の記憶に苦しみ続けます。
ウダイの影として生きた4年間は、人生を永遠に変えてしまったのです。
映画「デビルズ・ダブル －ある影武者の物語－」感想
観終わったあと、しばらく動けませんでした。
あまりに現実離れした話のようでいて、実際に“あった”という事実がずしりと胸に残ります。
最初は「独裁者の息子の影武者」という設定に興味を惹かれて観たんですが、途中からそんな好奇心は吹き飛びました。
ラティフが味わう地獄は、想像を超えていました。
何より印象的だったのは、主演のドミニク・クーパーの演技です。
ウダイとラティフを演じ分けているのに、途中から本当に別人に見えるほど。
ウダイの狂気は目の奥が空っぽで、笑っているのに寒気がする。
対してラティフは同じ顔なのに、目が人間らしい。
同じ顔で「善と悪」がここまで分かれるのかと、ゾッとしました。
物語が進むにつれて、ウダイの狂気はどんどんエスカレートしていきます。
女、権力、暴力。
それを見せつけられるラティフの苦悩が、観ているこちらにも伝わってきて、本当に胃が痛くなります。
暴力シーンはかなり過激で、正直、目をそらしたくなる場面もありました。
でも、そういう“現実”を直視させることで、この映画は単なるエンタメではなく、「人間とは何か」を問う作品になっている気がします。
個人的に一番胸に残ったのは、ラティフが逃げ出すシーンです。
ようやく自由を掴んだと思ったのに、裏切りや喪失が待っている。
「自由って、結局なんだろう」と考えさせられました。
彼が最後に得た自由は、あまりに苦く、孤独でした。
この映画を観て感じたのは、人間の中にある“二面性”の恐ろしさです。
誰の中にも、ウダイとラティフの両方がある。
権力や恐怖の中で、人はどちらに傾くのか。
その紙一重のバランスが、映画全体を通してひたすら不気味に描かれていました。
美しくも醜い。
冷たくも熱い。
そんな映画です。
正直、二度と観たくないと思うくらい重いのに、頭のどこかではもう一度確かめたくなる――そんな妙な後味が残りました。
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まとめ
映画「デビルズ・ダブル －ある影武者の物語－」は、イラク独裁者の息子・ウダイ・フセインの狂気と、その影武者として生きることを強いられた男の苦悩を描いた衝撃の実話ベース作品です。
主演のドミニク・クーパーが一人二役で見せる圧倒的な演技は、まさに圧巻。
暴力や権力の恐ろしさをリアルに体感できる作品となっています。
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