アメリカの黒人解放運動を語る上で欠かせない存在がマルコムXです。
映画は、活動家となる前の荒れた青年時代から、刑務所での出会い、思想の転換、そして最期の瞬間までを長い時間をかけて描きます。
強さだけが目立つ人物像ではなく、迷い、怒り、葛藤に揺れる姿が丁寧に積み重なっているため、一気に引き込まれました。
大声で正義を叫ぶだけの人物に見えたこともありましたが、映画を観ると、その背後にどれだけ長い道のりと痛みがあったのかが分かります。
デンゼル・ワシントンの演技があまりにも自然で、途中からドキュメンタリーを見ているような感覚になりました。
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映画「マルコムX」解説
映画「マルコムX」は、実在した黒人解放運動の指導者マルコムXの生涯を描いた伝記映画です。
1940年代のアメリカでは、人種差別が法律でも慣習でも当然のように存在していました。
映画は、そんな時代を生きる黒人青年マルコム・リトルが犯罪に手を染め、そこから思想家マルコムXとして生まれ変わっていく過程を追いかけます。
監督はスパイク・リー、主演はデンゼル・ワシントン。どちらもこの題材に正面から向き合おうとする気迫が伝わってきます。
キャスト
- マルコム・リトル（マルコムX）：デンゼル・ワシントン
- ベインズ：アル・フリーマン・Jr
- ベティ：アンジェラ・バセット
- アーチー：デルロイ・リンドー
- ショーティ：スパイク・リー
映画「マルコムX」あらすじ・ネタバレ
第二次大戦中のボストン。
若いマルコム・リトルは、髪を化学薬品で真っ直ぐにするストレートヘアの文化に憧れ、そのままの勢いでナイトクラブの世界に飛び込みます。
友人ショーティとつるみ、派手なスーツを着て夜の街を歩き回る生活です。
そんな暮らしの中で金髪の女性ソフィアと一緒に住むようになり、道を踏み外していきます。
やくざ者のアーチーの仕事を引き受け、盗みや麻薬の売買に関わるようになります。
酔いも冷めることなく走り続けた生活は長く続かず、警察に捕まり刑務所に送られます。
マルコムにとって、ここが人生で最初の大きな転機になります。
ムハンマドに忠誠
刑務所では看守にも他の受刑者にも反抗的な態度を取り続け、落ち着く様子がありません。
そんなマルコムの目の鋭さと芯の強さを見抜いたのが、同じ受刑者のベインズです。
ベインズは、黒人ムスリムの思想を語り、世界の仕組みと黒人が置かれてきた歴史をゆっくり説明します。
マルコムは最初こそ突っぱねますが、もともと頭の回転が速く、理解が深まるにつれて自分の過去の行動と向き合うようになります。
ベインズとの対話は、何かに気づくというより、心の奥に沈んでいた怒りと悲しみが形になる瞬間に近いものに感じました。
やがてマルコムはイスラム教一派に入信し、指導者イライジャ・ムハンマドに忠誠を誓うようになります。
宗教活動
出所後、マルコムはイライジャ・ムハンマドの元へ向かい、兄弟と呼び合う仲間に迎え入れられます。
宗教活動を通じて黒人の自立と団結を訴えるうちに、演説の才能が開花します。
リズミカルで押し出しの強い言葉には熱があり、聞いている人の心を振り向かせる力がありました。
ある日、ベインズの紹介でベティと出会い、ほどなく結婚。
家庭を持ったマルコムは、宗教団体でより深い信頼を得るようになります。
しかしその一方で、団体内部ではマルコムの存在が大きくなりすぎたことへの不満もくすぶり始めていました。
そんな中、イライジャ・ムハンマドに関する衝撃的な噂を聞かされます。
未婚の女性数名との関係と子どもの存在です。
実際に関係者と会い、話を聞いたマルコムは動揺を隠しきれません。
信仰を支えてきた柱が崩れた瞬間です。
結末
悩み続けた末、マルコムは団体から離れる決断をします。
ベティの支えもあり、独立後は考え方を大きく変化させ、黒人優位という考えを捨てます。
メッカ巡礼の旅で、異なる人種と宗教が混じり合う光景を見たことが、物の見方を根本から変えた理由でした。
しかし団体を離れたマルコムを、元仲間が許すはずがありません。
メディアで発言を続ければ続けるほど恨みを買い、身の回りには危険が迫っていきます。
そして1965年。
講演のステージで複数の男が銃を向け、マルコムは倒れます。
響き続ける銃声と観客の叫び。
会場はあっという間に混乱に包まれます。
マルコムXの人生は39年で終わりましたが、その後の黒人解放運動に残した影響は消えることがありませんでした。
映画「マルコムX」感想
最初の数十分、派手なスーツで夜の街を歩くマルコムを見ていると、強さよりも不安定さの方が目につきました。何かをごまかすように笑っている感じがして、落ち着かない気持ちになります。あの頃のマルコムが抱えていた空虚さが、画面越しにじわっと伝わってきました。
刑務所に入ってからの変化は、ただの更生ではなく、内側をひっくり返すような出来事だったのだと思います。ベインズの言葉を聞いている時の目の動きが、小さく震えているように見えて、強がりの奥にある弱さまで一緒に出てきているようでした。あの瞬間の静けさは、派手なシーンより心に残ります。
デンゼル・ワシントンの演技がとにかくすごくて、途中から役を演じているというより、マルコムそのものになっているように感じました。声の出し方や歩き方まで、一本筋の通った強さがあって、見ている側まで背筋を伸ばしたくなります。
だけど、強いだけの人ではありません。家でベティと話す場面では、たびたび言葉が詰まるような沈黙があって、活動家の顔と家庭の顔の違いがそのまま映っていました。完璧ではないまま、必死に前へ進んでいく姿が本当に人間らしいです。
メッカから帰ってきた後のマルコムの穏やかな表情を見て、ここまでようやくたどり着いたのかと胸が熱くなりました。あの短い時間でも、遠くにある救いのようなものに触れたのだと思います。そして、その変化が周囲にとって都合が悪い流れを作ってしまうのも、なんともやるせないです。
最後の演説のシーンは、知っているはずの結末なのに、目が離せませんでした。言葉に覚悟が詰まっていて、何が起きても後戻りできない場所に立っているのが伝わります。銃声が響く瞬間、息を止めて見ていました。
観終わった後、重たいけれど不思議と前を向きたくなりました。誰かの人生が大きな波のように世界を動かすことがある。そんな実感がじわっと残る作品でした。
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まとめ
映画「マルコムX」は、一人の青年が犯罪の世界に落ちていくところから始まり、思想と出会い、自分の生き方をつかみ取るまでの長い道のりを描いた作品です。
マルコムが抱えていた怒りや迷いは、決して歴史の中だけの話ではなく、今を生きる人にも重なる部分があります。
デンゼル・ワシントンの演技は、マルコムという人物の激しさと繊細さをどちらも丁寧に映し出していて、観終わったあと胸に残るものが大きいです。
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